そのための題材は、その場所の過去や、我々の植物に対する理解を再定義しようとする現在の科学的研究の見知、またこの場所に聞き入ることから読み取ることが出来ます。

小石川植物園の前身は、都心における貧困者のための療養所とそのための野草園でした。また100年前の大震災の折には、人々の安心と平穏のための避難所になるなど、その過去には、人を受け入れ続けて来た場所の歴史が存在しています。今日においては、都心に居住する人々が心身の健康を求めこの空間に集まります。植物と同時に人が集まる中、多様な情報も集積され、また多様なものとの拡がりを持ち始めています。

現在の植物園における先端的な研究では、昨今のデジタル・トランスフォメーション期において、自然との物理的な関係性、あるいは身体性との接点そのものが議論の対象となっています。例えば植物を、昆虫や動物などの生息圏を共にする生物の関係性から理解しようとする取り組みは、自分達(人)を生態系のつながりの中に戻そうとします。また葉っぱの形状の理由など、これまで、疑問に思うも説明されて来なかった目の前の事象に、ようやく科学の先端が追いついて来ています。香りの分子分析から見えてくるこれまで目視しようとしていた生態系の物性的理解。これらの知見が捉え直す目の前の自然の可能性を改めて再読する必要が感じられます。

これらの歴史や知見は、次世代、次次世代への教育をどう変えていくでしょうか?植物の系統体系が改められ、これまでとは異なる観点で次世代は自然を捉え始めようとしていること、見えていなかった関係性が聞こえ、感じられる子どもたち、将来の植物園の空間はどのような姿をしているのでしょうか?

音という媒体を介して、この場所に対し、音を出しながら能動的に働きかけることで顕在化し、具現化するこの場所の可能性について試論しました。

イソドン研究室

ムツモンオトシブミとハクサンカメバヒキオコシの翻訳機
安齋励應